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“バレアリック”って一体何だ??

by 一梨乃みなぎ on 2011年12月13日

 

 
 前回の記事でアジアの「バレアリックの本場」タイのバンガン島についての記事を書きましたが、そもそも音楽ジャンルとして「バレアリック」という言葉について曖昧な方も多いかもしれません。

 まずバレアリック・サウンドというと、多くの方がスペインのイビザ島をイメージすると思うのですが……それもそのはず、イビザ島はスペイン領のバリアリス諸島の中にある一つの島であり、このバレアリス諸島がジャンルの語源になっています。

 つまりイビザ島のビーチパーティー文化から生まれた音楽ジャンルということなのです。

 このバレアリック・サウンドを語る上で、ジャンルのルーツになっている楽曲があります、それが84年にリリースされたManuel GottschingのE2-E4という楽曲です。

Manuel Gottsching / E2-E4

 なんとこの曲、フルレングスで1時間弱にもなる超大作のミニマルテクノなのですが、E2-E4というタイトルはチェスの手を表します。

 一般リリースされたのは84年ですが、81年にレコーディングされたこの楽曲は、当時、進化が注目されていたコンピューターチェス同士の「果てしない対戦」をミニマルテクノで表現するというものでした。

 この曲の43分過ぎから入ってくるストリングスには、確かに現代のバレアリックサウンドのルーツを見ることが出来ると思います。
 
 しかしManuel Gottching氏はクラブミュージックのトラックメイカーではなく、59分にも及ぶこの曲をパーティでプレイするのには無理があり、さして話題にならずにシーンに埋もれていきます。

 実際リリース当時、この楽曲は「あまりに展開がない駄作だ」という酷評を受けていたようです。

 E2-E4という楽曲が本当の意味で注目を浴びるようになったのはこの89年リリースのSueno Latinoでしょう。

Sueno Latino / Sueno Latino (The Paradice Version)

 イタリアのレーベル「DFC」からリリースされたこの曲は、E2-E4をハウスにアレンジしたもので、イビザのビーチパーティでパワープレイされ大ヒットしました。

 またリリースがイタリアのレーベルだったというのもあり、80年代終盤から90年代初頭まで「イタロハウス」と呼ばれる、イタリア産のダンスミュージックもこのSueno Latinoを皮切りに大いに注目をあびることになります。

 イタリアのダンスミュージック「イタロハウス」の特徴は、シリアスなテクノミュージックに対して「脳天気で開放的」という表現が当時しばしば使われ、イビザのビーチパーティではこの「イタロ・ブーム」の後も、近い流れを組むUKガラージやハンドバッグハウスなどが、トランスなどと同じパーティでプレイされていました。

Moloko / Sing It Back
・この曲はコナミの某ゲームに収録されたこともあるので、知っている人が多いかもしれません。
 AirscapeやChicane、Armin Van Buurenが所属していたレーベルXtravaganzaのボス、Alex Goldもイビザで好んでプレイしてました。

Disco Citizens / Right Here Right Now
・後に「バレアリックサウンドの覇者」と呼ばれるChicaneの初期の楽曲です。
 聞いての通りトランスではなくガラージハウスですが、やはりイビザのビーチパーティでプレイされてました。

Chicane / Strong In Love
・Right Here Right Nowのメロディラインは、後にChicane自身のこの曲でセルフカヴァーされました
 90年代のこのころまでChicaneはイタロハウスをルーツに持つUKガラージ系の音使いを持っていました。

 上記の曲を聴いていただければ「脳天気で開放的」という意味合いが理解していただけると思います。

 これらの楽曲は90年代半ばから後半にかけてのヒット曲ですが、誕生のルーツはイビザのクラブシーンでありSueno Latinoが開いた道と言えるかもしれません。

 Sueno Latino(E2-E4)自体の楽曲も89年の初期リリース以降も、何度かのリメイクを経て、よりトランス寄りの音使いへの変化も遂げてゆきます。

 97年にはEuginaやThe Energyなどのヒット曲が有名なSaltTankによるアレンジもリリースされ、2000年代に入ってもRemixがリリースされるなど数多くありますが、特筆すべきはデトロイト・テクノの第一人者 Derrick May によるリリースでしょう。

Sueno Latino / Sueno Latino (Derrick May’s Illusion First Mix)

 リリースは92年ということで、Derrick Mayのリリースの中では成熟期になります。
 まだトランスという言葉も無く、このジャンルは「アンビエントハウス」という括りにされていました。
 89年のリリースに比べると、現代のトランスに通じるサウンドに近くなっている形が聴いて伺えると思います。

 前回の記事、バンガン島でのサイケデリック・ゴアのサウンドがアジアならではのサウンドフレーバーと言うならば、イビザ島は同じ地中海を基軸としたイタリアの影響を受けたサウンドフレーバーであることが伺えると思います。

 少し抽象的になってしまいましたが、バレアリックサウンドのルーツや、流れを少しでも触れていただけたなら幸いです。
 
関連リンク

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一梨乃みなぎ

萌え系イラストレーター兼、ゆるレコードコレクター。
アニソンや電波ソングを横目にディープなクラブミュージック大好き。
主に90年代序盤あたりから4つ打ち系の踊れそうな音楽を追いかけるうちに部屋がCDとレコードまみれに。

好きなアーティストはSolarstone
同人サークル「ビテイコツハンター」所属
http://cocoon.selfish.be

@Minagi_Ichirino