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音空間の魔術師~The Thrillseekers

by 一梨乃みなぎ on 2012年2月8日

 

 

 突然ですが、「シネステシア(Synaesthesia)」という言葉を知っているでしょうか?

 この言葉は心理学用語として主に知られていて「共感覚」として日本語では表現されています。

 共感覚とは「ある刺激」を受けたときに、本来感じる感覚とは別の感覚を伴って感じる現象を表します。

 例えば、ある音……フライパンを叩く音や水滴が滴る音など、何気ない音を聞いたときに、その音が「辛い」とか「酸っぱい」という、本来音にはない「味覚」を伴って感じられる現象などのことです。

 しかし、Tranceフリークにとってはこの楽曲を真っ先に思い浮かべるのではないのでしょうか。

The Thrillseekers / Synaesthesia [Neo Records 1998]

 Steve HelstripことThe Thrillseekersのデビューシングルとなったこの楽曲は、UKのNeoから98年のプロモリリースされました。

 翌年99年に正規にリリースされ、当時無名の新人ながら、Paul OakenfoldやPaul Van Dykなどが好んでプレイし、この楽曲はじわりじわりと話題になっていきます。

 特にPaul Van DykはこのSynaesthesiaを甚く気に入って、なんと彼自身のオファーで、自前のレーベルVandit Recordsからドイツ盤がリリースされ、更にはPaul Van Dyk自身がSynaesthesiaのRemixを手がけるというVIP対応!

 The Thrillseekersの名前は一躍クラブシーンに轟き渡りました。

The Thrillseekers / Synaesthesia (Paul Van Dyk Dub Mix)[Vandit Records 2000]

 Paul Van DykのRemixはDubの他にVocal Mixも存在しますが、主にクラブでプレーされたのはこのDub Mixの方。

 日本でトランスブームの火付け役になっていた、AvexTraxのTrance Matchシリーズにも収録されたのもDub Mixの方でした。

 当時のPaul Van Dykの気に入りっぷりはかなりのもので、彼がSynaesthesiaと同時期にリリースした楽曲 Columbia EP のジャケットの写真にあるレコードバッグ(?)には、なんとSymaesthesiaのレコードが一番手前に見えたりします。

 翌年2001年にはSheryl Deane嬢のボーカルを乗せたボーカルアレンジ Synaesthesia (Fly Away) が正規リリースされ、これはヨーロッパ各国だけでなく、アメリカのUltra Recordsにライセンスされ全米上陸も果たしました。

The Thrillseekers Feat.Sheryl Deane / Synaesthesia(Fly Away)[Neo Records 2001]

 この世界一とも言われる、彼の絶妙なディレイ(残響・反響音の効果)の効かせ方による音空間の演出は、このボーカルアレンジでも健在。

 最初のリリースから3年、洗練された音に繊細で甘く甘美なメロディが女性ボーカルととても良く合っていて、自分もお気に入りの一曲です。

 このSynaesthesiaの大ヒットで一躍スターダムに駆け上がったThe Thrillseekersは、セカンドシングルになるDreaming of YouのリリースではUKのMinistry Of Soundと契約し、傘下のダンスレーベルDATAからリリースされました。

The Thrillseekers / Dreaming of You [Data Records 2002]

 甘美で繊細なメロディに、甘く切なく歌いあげるAlexis Strum嬢のベルベットなボーカルは、Synaesthesiaの流れをくむ、まさにThe Thrillseekersの真骨頂とも言うべき名チューン。

 ひとりきりで過ごす静かな夜に聞きたい一曲です。

 しかし、実はこのDreamin of Youの前に1曲、Synaesthesiaのフォローアップとして作られた楽曲がありました。

Hydra / Affinity (The Thrillseekers Vocal Mix) [Ministry Of Sound 2002]

 Affinity(アフィニティ)とは『親和性』を表す単語、タイトルからしてSynaesthesiaの流れを組む楽曲で、この曲は02年、Dreaming of Youよりも先に製作されたと言われています。

 しかし、当時The Thrillseekersが契約していたMinistry Of Soundはこの楽曲をライセンスしたものの、どういうわけなのかリリースをせず、少数のプレスがインディペンデントレーベルから放出されたに留まりました。

 リリース名義の「Hydra」はThe Thrillseekersの別名義で、この曲にしか使われていない名前です。 これもひょっとしたら複雑なライセンス関係が背景にあるのかもしれません。

 ちなみに、ボーカルは後にLost WitnessやHeadstrongなどでも有名なTiff Lacey嬢だったりします。

 曲自体は知っているけれども、なかなか手に入れられない……Affinityは05年にThe Thrillseekers自身がライセンスを買い戻すまでは、ちょっとした「知る人ぞ知る名曲」として語られていました。

The Thrillseekers pres.Hydra / Affinity (Menno De Jong Remix) [Adjusted 2005]

 2005年に改めてThe Thrillseekers自身のレーベルからリリースされたAffinityにはMenno De Jongをはじめとして、幾つかのRemixが追加され装い新たにとなりましたが、Synaesthesiaのヒットから5年、すっかりトランスのシーンは変わってしまっていました。

 Ministry Of SoundやPositivaなどの大手レーベルにライセンスされ、大々的にリリースされるような時代ではなくなっており、AffinityはSynaesthesia程の話題にはならず、ひっそりとしたリリースでした。

 しかし、The Thrillseekersのファンからの支持は厚く(自分自身もその一人ですが!) Synaesthesiaが日向の名曲であるなら、Affinityは日陰の名曲と言えるのかもしれません。

 2010年にはそれまでAdjustedの直販や契約サイトでしか手に入れられなかったAffinityですが、Armadaからも改めてリリースされ、国内のアイチューンズストアでも配信が始まり、遅れてようやく手に入りやすくなりました。

 折りしも時同じくして2010年、The ThrillseekersはSynaesthesiaの2010年バージョンのアレンジをリリースしています。

The Thrillseekers / Synaesthesia (Thrillseekers Live Xtreme Mix) [Soundpiercing 2010]

 タイトルにあるようにこのアレンジは、彼自身のライブツアー「Live Xtreme」のために新たにアレンジされたものです。

 その他にもAlex MorphによるアップリフティングなRemixもリリースされ、それだけでなく、未だに初期リリースのSynaesthesiaも時折プレイされることもあり、そのメロディは今でも愛されていると言えるでしょう。

 SynaesthesiaとAffinity、思えば日向と日陰と正反対の道をたどって来たこの2曲ですが、合わせて紐解いて聴いてみると、少しThe Thrillseekersが立体的に見えるかもしれません。

 ――それから、最後に1曲。

 昨年2月、The Thrillseekersはいよいよの初来日を果たしましたが、そのほんの僅か数週間後に東日本大震災が起こりました。

 津波が街を飲み込んでゆくそのショッキングなニュース映像は世界を駆け巡り、ほんの少し前に日本を訪れていたThe Thrillseekersに、そのニュースは強い衝撃を与えました。

 未曾有の災害に多くのアーティストたちが立ち上がり、チャリティーと名打って、コンピアルバムや楽曲をリリースしましたが、The Thrillseekersも日本へ捧げる楽曲として昨年Song For Sendaiをリリースしました。

The Thrillseekers / Song For Sendai [Adjusted 2011]

 この「Sendai」とは言うまでもなく、津波で被害を受けた宮城県仙台市のことです。

 通常のリリースの場合もう1曲別の曲を合わせたり、またはRemixと合わせてのリリースになるのですが、この曲は本当にこの1曲のためのリリースでした。 そういうところからもいかに彼が日本の大地震に強い衝撃を受け、その気持ちから一気に描き下ろした1曲だというのが伺えると思います。

 しかし、このジャケットに踊る日本語「起死回生」とは……果たして、彼、この日本語の意味を知ってのデザインなのだろうか……?



一梨乃みなぎ

萌え系イラストレーター兼、ゆるレコードコレクター。
アニソンや電波ソングを横目にディープなクラブミュージック大好き。
主に90年代序盤あたりから4つ打ち系の踊れそうな音楽を追いかけるうちに部屋がCDとレコードまみれに。

好きなアーティストはSolarstone
同人サークル「ビテイコツハンター」所属
http://cocoon.selfish.be

@Minagi_Ichirino