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隠れたアンセム、Invisibleを聴いて欲しい!

by 一梨乃みなぎ on 2012年2月28日

 

 


『Invisible~歴史の隙間に咲いた一曲』

 トランスという音楽ジャンルが生まれて、何年が経ったでしょうか?
 その、決して短くない時の間に、無数の曲が生まれ、いくつかの楽曲がその時々に輝き、やがて時代と共に通り過ぎてゆきます。

 時として、時代は偶然を産み、その時代でしか成し得なかった名曲(アンセム)を、足跡として残してゆきます。
 今日紹介するのは、決して時代の主役ではないけれど、そんな時代を彩った珠玉の名曲です。

Tilt / Invisible (Original 12″ Vocal Mix) [HoojChoons 1999]

 時は1999年、Michael ParkとMichael Wilson、John Graham(a.k.a.Quivver)の3人組のユニット「Tilt」は最大のビッグチューンを、UKのレーベルHoojChoonsからリリースします。

 ボーカルパートでAnd I’m feeling invisible~と、甘く切なく歌いあげるのはDominique Atkins嬢、かつてPaul Oakenfoldのユニット”Grace”のフロントメンバーとして活躍したボーカリストで、この曲の作詞も担当しています。

 折りしも99年は、以前紹介しました Rank1 / Airwave や、The Thrillseekers / Synaesthesia などもリリースされ「トランスブーム」が、シーンの潮流として押し寄せている時代でした。

 このInvisibleはそんな時代も後押しし、UKナショナルチャートでトップ20入りを果たす、HoojChoonsを代表するヒット曲となりました。

 しかし、このInvisibleという楽曲は、実に数奇な運命(ストーリー)を持つ、少し特殊な生い立ちを持つ楽曲であったりするのです。

Tilt vs.Paul Van Dyk / Rendezvous (Quadrophonic Instrumental Mix)[Perfecto 1997]

 時は1997年、当時Tiltの所属していたPaul Oakenfoldのレーベル Perfecto からリリースされた楽曲 “Butterfly” のカップリングとして、この楽曲はリリースされました。

 Dominique Atkinsのボーカルはなく、インスト曲として、タイトルは”Rendezvous”
 名義にもあるように、なんと、ドイツトランス界の重鎮 Paul Van Dyk との合作です。

 楽曲を聞いていけば当時Paul Van Dykのリリースした Beatiful Placeにも通じる音使いが聴き取れたりと、いわゆる PVDフレーヴァー も感じさせる良作なのですが、Perfectoはこの楽曲をシングルリリースせず、あくまでもButterflyのカップリング、B面のステータスとしてリリースしました。

 果たしてこのリリースに関して、Tiltの3人は不服があったのか……何があったのか正確には知る由もない所ではありますが、事実として、このリリース直後にTiltはPerfectoを脱退してしまいます。

 続くリリースである “Children” は翌年98年に、Maria Naylorとの合作 “Angry Skies”(これも名曲!)も99年に、それぞれ Deconstruction からリリースされています。

 そうした紆余曲折の後に、Tiltは99年にHoojChoonsと契約をし、Rendezbousにボーカルを乗せた”Invisible” のリリースに至ります。

 初期のPerfecto盤からは2年経ってからの、待望のリリースでした。 クレジットには名前こそあるものの、名義からは Paul Van Dyk の名前は外されています。

 このリリースに関して、HoojChoonsの気合の入り様は、新たに収録された “LostTribe Vocal Mix” というバージョンに伺えます

Tilt / Invisible (Lost Tribe Vocal Mix) [Hooj Choons 1999]

 ひょっとしたらトランスファンにとって、このバージョンが最も馴染みがあるかもしれません。
 Remixを担当した”LostTribe”とは、”Gamemaster”のヒットが有名な Red Jerry(なんとHoojChoonsのレーベルオーナー!)と、現在も一線で活動を続けている Matt Darey による二人組のプロジェクトで、当時4つ打ちからブレイクビート、ドラムンベースに傾倒していたRed Jerryにとって、LostTribeはトランス、ハウス方面のメインプロジェクトでもありました。

 Hooj Choons自体も、この頃(カタ番50番代から80番台後半まで、Invisibleはカタ番HOOJ73)は比較的メロディックなトランス作品を多く輩出しており、他、同時期のHoojの名曲といえば Three Drives / Greece 2000(HOOJ63) LostTribe / Gamemaster(HOOJ81) Solarstone / Seven Cities(HOOJ85) などがあり、これらの楽曲のメロディは、今でもすぐに思い浮かぶ方も多いはず。

 このリリースはそんな背景もあって、先に書いたような大ヒットとなったのです。
 また”LostTribe Vocal Mix”は Armin Van Buuren や Ferry Corsten もヘビープレイし、彼らのコンピレーションアルバムに収録も果たしました。

 しかし、この楽曲のボーカリスト Dominique Atkins はもともとPaul Oakenfoldと強い関係を持つボーカリストで、なぜPerfecto盤ではなく、HoojChoons盤にあたってボーカルを当てたのか……
 タイトルが変わったり、2年という空白期間もあり、なかなかプロダクションとしてはいまいち不可解な点も多かったりします。

 Tiltはこのヒットの後も、HoojChoonsで活動を続け、HoojChoonsがトランス方面の音使いからプログレッシブ寄りの、ディープな音使いの方へ傾倒してゆくのに併せて、よりプログレッシブな音使いへ変化してゆきます。

 後にリリースされる Dark Science.EP ではメロディックな Invisible から一転して、ダークなプログレッシブトランスの世界を展開し、その後も The World Doesn’t Know や、New Day などのスマッシュヒット、最近では No Other Day をリリースするなど、現在にいたっても(メンバーチェンジをしつつも)細々と活動を続けていますが、そのへんの話はまたの機会に……

 やはりあのメロディックなメロディ、Paul Van Dykとの合作、Dominique Atkinsの甘美なボーカル、Red Jerryの最後期のトランスサウンドとして、奇跡とも偶然とも言えるコラボレーションを果たしたこの楽曲は、この時代を彩った『あの頃の名曲』であるのです。



一梨乃みなぎ

萌え系イラストレーター兼、ゆるレコードコレクター。
アニソンや電波ソングを横目にディープなクラブミュージック大好き。
主に90年代序盤あたりから4つ打ち系の踊れそうな音楽を追いかけるうちに部屋がCDとレコードまみれに。

好きなアーティストはSolarstone
同人サークル「ビテイコツハンター」所属
http://cocoon.selfish.be

@Minagi_Ichirino