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トランス創世記を支えた名ユニット”Tilt”

by 一梨乃みなぎ on 2012年4月2日

 

 
どうもこんにちは、一梨乃みなぎです。
とうとうボクのニッチな楽曲紹介記事も、驚くことに10回目の連載を迎えてしまいました。

イラストや漫画の原稿作業などの片手間なので、どうしても不定期気味な連載で、前回の記事の掲載から、少し間が空いてしまいましたが、今回は前回の記事で取り上げたユニット『Tilt』について更にもう少し掘り下げて紹介してみたいと思います。

トランスにおける複数人のクリエイターやDJによるユニットというと、どうしても一時期は調子が良くても、お互いに人間同士ということもあり、うまくいくことばかりではありません。

 
仕事などで同じチーム(部所)として一つの目標やタスクに向かい、合同で作業を進めてゆく機会が多い方は、その点において共感があるかもしれません。

むしろ、ずーっと仲良く、お互いをリスペクトしあい、ユニットの活動を続けていくという方が、少数であり、多くのユニットはメンバーそれぞれが、自分の道へと歩んでゆくことが多かったりします。

 
例えば、SolarstoneはかつてAndy Bury, Rich Mowatt, Sam Tierneyの3人組でしたが、メジャーデビュー後Andy Bury, Rich Mowattの二人組のユニットになり、更にそこからAndyが脱退し、現在Rich Mowattのソロユニットになってしまいました(涙)

また最近ではAs Rush And Comesや、Tracking Treasure Downのヒットで有名なユニット、Gabriel & Dresdenの解散も記憶に新しい話です。(その後また一緒に再結成する?などの話も今あるようですが)

 
Tiltと言うユニットは、前回の記事で紹介したようにMichael ParkとMichael Wilson、John Graham(a.k.a.Quivver)の3人組のユニットで、95年のI Dreamのデビューシングルのスマッシュヒットから、彼らのキャリアがスタートします。

・Tilt / I Dream (Casa De Angeles Mix) [Perfecto 1995]

・この「Casa De Angeles Mix」はA面に収録された、John Grahamによるアレンジで、後のQuivver名義のイメージにあるようなダークな展開ではなく、メロディックなトランスアレンジです。

Perfectoのレーベルオーナー、Paul Oakenfoldのバックアップもあり、この曲はイビザ島やバンガン島のなどのビーチパーティを中心としてプレイされ、ヒットへとつながりました。

友人の話曰く、バンガン島でこの曲は主に朝方ではなく、夜の暗いうちにプレイすることが多かったのだとか……

I Dreamはその後も何度かリメイクされ、99年のHooj Choons移籍時にも、Invisivleのカップリングとして「Tilt’s Resurrection Mix」が収録されています。

・Tilt / I Dream (Tilt’s Resurrection Mix) [Hooj Choons 1999]

更には、昨年リリースされたSolarstoneのコンセプトアルバム Electronic Architecture 2 にも、新たに書き下ろされた「Nick Rowland Remix」が収録されました。

・Tilt / I Dream (Nick Rowland Remix) [Solaris 2011]

しかし、思えば確か数年前、Tiltの公式サイトで「I Dream」のリミックスコンペを開催しており、優秀作品はLost Languageからシングルリリースされるよと言う、そんな告知があったはずなのですが……果たしてあの件はどうなったのでしょうか。

まさかこのNick Rowland Remixっていうのが、それ……じゃないとは思いたいのですが(笑)

Tiltはその後、Perfectoから活動の場をDeconstructionや、HoojChoonsへと移し、大ヒットシングルInvisibleをリリースします。

この件に関しては前回の記事に詳しいので割愛しますが、このInvisibleのクレジットにはPaul Van Dykの名前があり、氏との合作品としてのリリースとなりました。

 
また、同時期にはInvisibleのヒットに隠れて、影が薄い存在ではありますが、かの Robert Miles のカヴァーであるChildren、歌姫 Maria Naylor との合作Angry Skiesもリリースしています。

・Tilt / Children (Tilt’s Courtyard Mix) [Deconstruction 1998]

・Tilt & Maria Naylor / Angry Skies (Terrestrial Vox Mix) [Deconstruction 1999]

この頃のTiltは一番メロディックな時期で、当時のトランス界を代表するフロントランナーの1ユニットでありました。

Childrenは言うまでもなく Robert Miles の世界的なヒット曲「Children」のリメイクで(ちなみにRobert Milesも、Deconstruction所属アーティストでした)このメロディは、日本ではTV番組「鉄腕DASH!」を思い浮かべる方も多いのではないのでしょうか(笑)

 
Angry Skiesで合作したMaria Naylor嬢は、Sashaの不朽の名曲「Be As One」でのボーカルを担当するなど、トランスのボーカリストとしては、Invisibleでのボーカルを担当したDominique Atkinsと並んで、当時を彩った歌姫の一人でした。

「Tilt Featuring Maria Naylor」ではなく「Tilt & Maria Naylor」という名義からも、彼女の存在感が伺えると思います。

 
しかし、そんな成功を手にしたTiltですが、彼らも時代の波に飲まれてゆきます。
2000年代に入り、彼らの所属していたレーベルHoojChoonsが、よりダークでプログレッシブなレーベルカラーへと変化して行く中で、Tiltもメロディック路線から、ダークでプログレッシブな方向へと舵を切ってゆきます。

InvisibleのフォローアップとしてリリースされたDark Science EPでは、あまりの楽曲のキャラクターの違いにびっくりする方も多かったのではないのでしょうか。

・Tilt / 36 (Tilt’s Hydravox Mix) [Hooj Choons 2000]

この36はDark Science EPのA面に収録されました。

もともと、メンバーのJohn GrahamはQuivver名義で、プログレッシブな楽曲を得意としていましたし、Michael ParkとMichael WilsonもParks & Wilson名義でリリースをはじめるなど、Tiltは新たな展開を見せてゆきます。

ちょうどこの頃から、それぞれのソロ活動が目立つようになり、はっきりとした時期はあやふやだったと思いますが、John GrahamがTiltを脱退してしまい、渋谷や新宿のシスコやマンハッタンレコードでは「Tilt解散!」なんていう話題もあったように覚えてます。

 
話題や流行の新陳代謝の早いクラブミュージックシーンで、Tiltはやがて、いつの間にか、クラバーの記憶から薄れて行き、低空飛行へとなってゆきます。

・Parks & Wilson / Drum Parade(No UFOS) (Parks & Wilson Berlin Mix) [Hooj Choons 2000]

・Tilt Feat Maria Nayler / Headstrong (Relentless Vocal Mix) [Baroque Records 2002]

この楽曲「Headstrong」は、02年のリリースですが、非常にこぢんまりとしたリリースで、Invisibleの大ヒットから3年、再びMaria Naylorを迎え入れたものの、ほとんど話題にならなかったリリースと記憶しています。

聴いての通りのプログレッシブハウスで、リリースされたBaroque RecordsはHoojChoonsの姉妹レーベル(?)になります。 初期のAndy MoorやBanz&MDなども所属していました。

この楽曲のクレジットから、John Grahamの名前が消えています。

 
折しもこの頃、日本では、AvexTraxによる「サイバートランス」の大ヒットで、トランスのブームが訪れていましたが、このようなプログレッシブハウスは今以上に注目を浴びることはなく、果たして何枚のレコードが日本に入荷し、どれほどのDJたちがこの音を追いかけたでしょうか。

更には翌年03年には、密接な関係を築いていた所属レーベルHoojChoonsが倒産(!!)Tiltはこのまま自然消滅してゆくのかと、おそらく少ない人が思ったに違いないでしょう。

しかし、Tiltは翌年、華々しい復活を遂げることになります。

・Tilt / The World Doesn’t Know [Lost Language 2004]

HoojChoonsのメロディックトランス部門としてのサブレーベルだった Lost Language はHoojChoons倒産後も、新たなディールと契約しレーベルを存続、Tiltはそんな新生Lost Languageに向かい入れられ、レーベルの旗手として新曲「The World Doesn’t Know」をリリースします

またMichael ParkとMichael Wilsonの二人のメンバーに加えて、新キャラクター(笑)として、なんと当時、時の人だったAndy Moorが加わり、再び3人組のユニットとして再始動となりました。

シスコの店頭POPには「え!?解散したんじゃなかったの??」なんて言葉も躍っていましたが(笑)

 
Andy Moorといえば、近年は毎年DJマガジンの人気投票でも上位をマークするなど、すっかり大御所としての格を見せていますが、この04年当時は”Air For Life”や、”Whiteroom”など、現在も語り継がれるヒット曲のリリースで、ちょうど彼がブレイクし始めた頃で、このTiltのリリースもAndy Moorのキャリアの中で非常に大きなステップとなりました。

更に立て続けにアルバム「Explorer」をリリース、そこからも「Twelve」「New Day」がシングルカットされ、この時期は「Tilt第二黄金期」とも言える時期かもしれません。

・Tilt / Twelve

・Tilt / New Day (David West Remix)

しかし、これらの時期の曲を聴いてわかる方はわかると思うのですが……とにかく音がTiltというよりも Andy Moorの音 なんですよね。

アルバムExplorerのプロモーション用に撮影された写真からも、Andy Moorは、Parks & Wilsonの二人とは相慣れない姿といいますか、彼一人浮いて見えるのはボクだけではないはず……


▲一人だけイケメンのAndy Moorさん(画像向かって一番左の方)
楽曲にしても独特のベースラインの効かせ方など、とにかくAndy Moorの強い個性が当時のTiltで、なかでも当時Remixを担当したAllureのThe Love We Lostは、ほとんどAndy Moor一人で作ったのではないかというような音になってしまっています。

・Tiesto presents Allure / The Loves We Lost (Tilt Remix) [Magik Muzik 2006]

ちなみにこの Allure というユニットはDJ Tiestoの別名義ユニットで、90年代終盤にNo More Tearsのヒットが有名な名義。

このThe Loves We Lostのリリースまで、随分と長いこと使われていない名前だったので、この名義でのリリースとなった時に「Allure復活!」とちょっとした話題になったのを覚えています。

 
オリジナルはTiestoお得意のマッシブなテックチューンですが、それを敢えてスローにし、よりドリーミーでメロディックなアレンジへ上手く纏め上げたのは、Andy Moorの才能ゆえんと言えるかもしれません。

こうして再びシーンのフロントランナーに舞い戻ってきたかに思えたTiltですが、このAllureのRemixのリリースの前後、なんとMichael ParkとMichael Wilsonの二人が仲違いを起こし、Parks & Wilsonは解散してしまいます。

そうなると宙に浮いてしまうのがTiltで、そんな背景故The Loves We LostはAndy Moor色が強くなっていたのかもしれません。

 
結局そんなトラブルの後、TiltはMichael Wilsonが脱退という形になり、残ったのはMichael ParkとAndy Moorの二人という状況で、新たにアルバム「Vaults」をリリースします。

このアルバム「Vaults」は過去のアルバム未収録作品を中心とした収録内容で、新たにCressidaのアレンジでシングルリリースされた Angry Skies こそは、スマッシュヒットとなったものの、Lost Languageの低迷期も重なり、Tiltは再び低空飛行へなっていきます。

・Tilt & Maria Naylor / Angry Skies (Cressida Remix) [Lost Language 2007]

その後、Perfecto時代の過去作品をLost Languageから再リリースされたり、新たなRemixが発表されるなど、時折「Tilt」の名前はクラブシーンで耳にすることはありましたが、いつの間にかAndy MoorもTiltから脱退になり(本当にいつの間にか、少なくても上記のアルバムVaultsやAngry Skiesまでは名前は記載されていて、この当時はメンバーではあるようですが)

 
新曲のリリースはアルバムVaults以降めっきり止まってしまい、Lost Languageと共に解散、活動終了になるかと思われました。

しかし、まさかのまさか、Tiltはまたしてもシーンへ戻って来ました。

・Tilt / No Other Day (Tilt’s Century Mix) [Lost Language 2011]

細々とリリースを続けていたLost Languageもなんとカタログナンバー100番の大台に乗り、その記念すべき100番目のリリースとして、約5年ぶりの新曲が昨年リリースされました。
ボーカリストはやはり関係の深い Maria Naylorです。

Lost Languageも代表が変わったり、レーベルカラーがあっちへ行ったりこっちへ行ったりと、紆余曲折を繰り返して、すっかりいろんなアーティストが流出してしまい、ほとんど話題に上ることもなくなってきた中でのリリースだったので、ボク自身このリリースにはすごく驚きました。

 
クレジットには初期からのメンバーのMichael Parkがありますが、他は少し聞きなれないプロジェクトメンバーの名前が……(自分が勉強不足なのかもしれませんが!)

ちなみにこの楽曲のRemixには、なんと日本人のNhato氏が、アレンジを提供しています。

・Tilt / No Other Day (Tasadi & Nhato Remix) [Lost Language 2011]

ユニット結成からすでに17年、隆盛と衰退を時代の荒波の中で揉まれてきたTiltは、果たして三度輝きを取り戻し、スターダムを駆け上がることができるのでしょうか。



一梨乃みなぎ

萌え系イラストレーター兼、ゆるレコードコレクター。
アニソンや電波ソングを横目にディープなクラブミュージック大好き。
主に90年代序盤あたりから4つ打ち系の踊れそうな音楽を追いかけるうちに部屋がCDとレコードまみれに。

好きなアーティストはSolarstone
同人サークル「ビテイコツハンター」所属
http://cocoon.selfish.be

@Minagi_Ichirino